パパ頭の日々のつぶやき

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公務員兼業の進め方と私の事例

【はじめに】

私には、漫画書籍化の兼業申請が通知の発行や理由の説明を経ることなく不許可となったことに対し、その判断基準や過程において問題があったのではないかとして、都を提訴した経験がある。
この経験から、私は教育公務員の兼業について、法的知識から実際の現場手続きまで、相当詳しくなったように思う。
教育公務員の兼業については、すんなりと話が進む人もいる一方、まったく取り合ってもらえなかったり、手続きがわからずに一歩踏み出せずにいる人も少なくないと聞く。
ここではそうした人たちに対し、私の経験を還元する気持ちも込めて、現状私が把握している限りの公務員兼業の進め方について、解説をしたいと思う。
ただし、これまでいくつも例のある、学校という組織との結びつきが強いタイプの兼業(教科書や資料集の執筆、模試の作成等)については問題なく許可されると予想されるため、ここではこれまであまり前例のない、学校という組織とではなくむしろ個人の能力との結びつきが強いタイプの兼業(文章を書く、イラストを描く、楽器を演奏する等)に力点を置いてお話していきたい。

【申請には2種類ある】

これは私も訴訟を始めるまで知らなかったことだが、兼業の申請には2種類ある。
1つは「地方公務員法に基づく申請」、もう1つは「教育公務員特例法に基づく申請」である。
名前にある通り、前者は地方公務員として申請する形をとり、後者は教員として申請する形となる。
法律上には細かい表記の違いこそあるものの、何をもって許可するかといった基準については、各地方自治体で定めのある内規まで確認しても大きな違いは見受けられない。
ただ兼業の内容によってどちらの申請様式をとるか、大まかな区別はあるようで、以前経営企画室で確認したところによると、大学で講義をする、所属先とは別の学校で講師として働く等、取得免許と関係があり授業に近い活動をする場合は後者で申請しているとのことであった。
しかし逆に言うとそれ以外のものは概ね前者に括られるようである。
例えば教科書・資料集・模試関係のお仕事は私も経験があるが、それらはいずれも前者による申請の形をとった。
今回の話の主題である、前例のないタイプの兼業についても、原則は前者で申請するのが無難かと思う。

【申請に必要なもの】

申請には最低限必要なものが2つある。
1つは「申請書」、もう1つは「依頼書」である。
どちらを用意する際にも、注意すべきポイントがある。
それは「職務専念義務違反の恐れがないこと」と「信用失墜の恐れがないこと」、この2つの点を強調することである。
法律には、公務員の兼業は本務に支障のない限り認められると記載がある。
ここでいう、本務に支障がないかどうか、を判断する際に重要視されるのが、上記した2つの点になる。
では具体的にはどう強調したらよいのか、それぞれ解説していく。

まず申請書であるが、項目にある「必要とする回数・時間等」と「申請理由」の2箇所は注意が必要である。
「必要とする回数・時間等」とは、兼業にどれくらいの時間がかかるのかを示す箇所になるが、ここがあまりに多いと職務に専念する上で支障があると判断されかねない。
国家公務員向けの資料には、兼業は週8時間、日に3時間を基準とするとある
これを越えない範囲で検討する必要があるかと思う。
「申請理由」には、信用失墜の恐れがないという点を意識して、可能であればむしろ公の奉仕者として重要な仕事であることが伝わるように書けると良い。
もしも担当している科目との繋がりが示せるようであればそれも有効である。
地方公務員法に基づく申請は、そもそもこちらが教員であることを前提としていないので、仕事と科目との関連性を示す必要はないし、それを許可の要件とするような法律または内規上の記述があるわけでもないが、記載することで信用に足る仕事であると受け取ってもらえる傾向がある。

次に依頼書について、学校との結びつきの強い兼業の場合は、従事先の団体名・業務内容・期間・報酬・社印・数行程度の依頼文等が記載されていれば問題なく許可がでると思うが、前例のないものの場合は、可能な範囲で細かく書いてあった方が申請は通りやすくなる。
特に留意が必要なのは業務内容。
本務に支障のあるような過度な負担ではないことや、内容面で公務員の信用に傷をつけるものではないことを企業の側にも書いてもらえると心強い。

最低限必要なものは申請書と依頼書の2つだが、場合によってはそれ以外のものが要求されるケースもある。
例えば企業側の企画書であったり、申請者の宣誓書であったり…このあたりのものについては、何か明文化された規則があるわけではないようである。
中には無茶なものを要求されることもあり、そういったものについては交渉が必要かと思うが、比較的負担が少なく用意できるものであれば出してしまった方が無難ではある。
またやや注意が必要な点として、前例の少ない兼業は申請から許可までに時間がかかる傾向がある。
2年かかってしまった私の書籍化申請は例外的とはいえ、通常の兼業申請が数日程度で許可がでるのに対し、前例の少ない兼業は内容確認のための電話やり取りや申請書の書き直しなどが生じやすく、結果として時間が取られやすい。
難しい部分はあると思うが、できるだけ時間にゆとりをもって申請することをお勧めする。

【 許可をいただいた兼業例 】

以下では、私が正式に許可を得て行った兼業の事例を掲載していく。
公務員兼業の許可基準は、相変わらず不明瞭な部分が多いが、少なくともここに載せたものについては正式に許可が降りている。
つまり、基準をクリアしているということになる。
自身の兼業を考える際や、不利益な扱いを受けた際に反証する材料として、役立ててもらえたら幸いである。

育児漫画の書籍化
・ 申請の際に留意した点 
依頼書および申請書に、出版の趣旨として男性の育児参加や育休取得への理解を深める一助としたいことを強調。
育児漫画の内容に対する評価や、男性の描き手は希有であること、SNSのフォロワー数から多くの支持者がいることなどを示し、公務員としての信用失墜の恐れもないことを記した。
・ 作品
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自動車事故防止を目的としたサービスのPR漫画執筆
・ 申請の際に留意した点
依頼書および申請書に、交通事故防止は学生の安全な登校とも関連が深く、これに取り組むことは子どもたちの利益となること、また社会課題解決に取り組むことは公民科教員にとって大きな使命の一つであり、本務との繋がりも密接であることを強調した。
・ 作品


育児の男女共同参画促進を目的としたウェブメディア記事執筆
・ 申請の際に留意した点
依頼書および申請書に、日本では男女の不平等が問題視されており、特に育児に対しては関心が高まっていること、育休を実際に取得したものがその経験を記事として発表することで、経験が共有され実社会に利益を還元することが可能である点を記した。
・ 作品
www.e-aidem.com


自動車事故防止を目的としたサービスのPR漫画執筆
・ 申請の際に留意した点
同内容について過去に許可された例(本記事の②に該当)があったため、それにならう形で申請した。
・ 作品


地方自治体からの男性の育休取得経験についての講演
・ 申請の際に留意した点
国の主導する男女共同参画週間に伴うイベントでの講演であること、および地方自治体からの依頼であることを示し、信用失墜の恐れはないことを記した。
土曜日の実施であったため本件には直接関係なかったが、こういった地方自治体からの依頼については許可をいただきやすいだけでなく、実施日や準備日については職免の適用内であることを管理職より教わった。
・講演の動画
www.city.fuchu.tokyo.jp


育休取得を通じて得た気付きについてのウェブメディア記事執筆
・ 申請の際に留意した点
育休と言っても取得者は男女双方ありうるが、特に男性の育休経験に対する社会的関心が高まっていることを強調した。
ウェブメディア記事執筆は過去にも許可をもらった実績があったためか、以前と比較して詳細を書かずともすんなり許可を得られた。
判断に要した時間も短く済んだ。
・作品
media.lifull.com

ウェブメディアへの育児漫画連載
・ 申請の際に留意した点
ウェブメディアを通じた漫画の掲載自体は過去にも事例があったが、連載については初めてのことだったので、その期間については認識にずれが生じることのないよう正確さに気を払った。
今回のケースについては一年間の連載ということで許可をいただいた。
不定期連載などの場合はまた少し事情が違くなるのかもしれない。
・作品
gyutte.jp

育児系のYoutubeチャンネルへの出演
・ 申請の際に留意した点
Youtubeというメディアの性質上、漫画や記事の投稿以上に不特定多数の目に触れる可能性が高いことを考慮し、信用失墜にあたるような内容を含んでしまうことのないよう事前に依頼者側とは入念に打ち合わせした。
また申請の際にもその点は丁寧に文章化していただいた。
・作品
www.youtube.com

ウェブメディアからの取材
・ 申請の際に留意した点
これまで多くのメディアの取材を受け、記事を書いていただいてきたが、いずれも無報酬であり、兼業という形に当てはまらないものであった。
ただこちらのケースについては、取材そのものに対して報酬を支払いたいという申し出があったため、申請をだす運びとなった。
これまでのケースと同様、男性の育児参加や育休取得への理解を深める一助としたいことを強調、スムーズに許可を得ることができた。
・作品
woman.nikkei.com

セクシャルマイノリティ大会での講演
・ 申請の際に留意した点
講演については、以前地方自治体からの依頼に関して許可を得たことがあったが、今回の依頼元は民間の団体であり、また形式もオンラインによるものであった。
セクシャルマイノリティの方の権利保障や、相互理解促進など、公共性の高い依頼であることを強調した結果、スムーズに許可を得ることができた。
・作品
講演そのものについては期間内に料金をお支払いいただいた場合にのみ視聴可能だが、大凡の内容については以下ページからも確認できる。
sites.google.com

【許可をいただけなかった兼業例】

家事負担経験を目的とした住宅用洗剤のPR漫画執筆
・不許可となった理由
不許可通知には「学校職員の兼業等及び教育公務員の教育に関する兼職などに関する事務取扱規程第5条第5号に該当するため」との文言が記されていた。
こちらの規定については以下から確認可能。
学校職員の兼業等及び教育公務員の教育に関する兼職等に関する事務取扱規程
該当条文には「兼業しようとする団体等の事業又は事務に従事することによって、公務員としてその職の信用を傷つけ、又は職員の職全体の不名誉となると認めるとき」とある。
文書という形では示されなかったが、申請に際しやり取りのあった担当職員との会話の中で「住宅用洗剤全体のPRなら良いが、特定企業、特定商品のPRをすることは認められない」との言葉があった。

家族写真を中心としたふぉとサービスのPR漫画執筆
・不許可となった理由
学校職員の兼業等及び教育公務員の教育に関する兼職などに関する事務取扱規程第5条第5号に該当するため
担当職員から口頭にて「特定企業、特定商品のPRをすることは認められない」との言葉があった。
以前にも同様の理由で住宅用洗剤のPRが不許可になったことがある。
一方、交通事故防止のための保険商品のPRについては許可をいただいたことがあり、財はNGだがサービスならOKという区別があるかと思い申請したものの、こちらのサービスは通らなかった。

オリジナルグッズの製作
・不許可となった理由
学校職員の兼業等及び教育公務員の教育に関する兼職などに関する事務取扱規程第5条第5号に該当するため
担当職員から口頭にて「特定企業の利益となるものは許可できない」との言葉があった。
特定企業の特定商品をPRすることは許可できない、というこれまでいただいた話をもとに、「ではいっそ自分でデザインしたグッズであればどうか」と思い、いただいた依頼を申請してみたものの、これまでと同様の理由での不許可となった。
制作に当たって特定企業の協力を得る点が理由となったようで、全て自主制作であれば通るかもしれないとのことでもあった。
しかしながら、何を作るにしても、一切企業を通さずに完成までこぎつけるというのは極めて難しいように思う。
特定企業の利益を一切生まない仕事というのは成立するのだろうか。

KADOKAWAの運営する講師派遣事業への登録
・不許可となった理由
やや複雑な要素を含むため、始めに実際にいただいた回答の写真を掲載する。

回答

まず今回のケースの扱いについて、都は「報酬を得ての業務」ではなく「営利を目的に私企業を営む自営」であるとしている。
講師登録自体には報酬を得たり、逆に料金を支払うといったことは発生せず、雇用契約を結ぶといったこともない。
そのため私としては、講師登録をした上で企業から具体的な依頼が発生した段階で、兼業申請にかけるといった流れになる可能性もあるかと思ったのだが、自営とのことであるとこのプロセスは経ないことになる。
では自営の場合どう判断されるのかということだが、ここででてくるのが写真にもある兼業規定留意事項等通知になる。
詳しくは以下を確認ください。
www.kyoiku.metro.tokyo.lg.jp
長文だが、関係しているのは第2条第1項関係の(5)イの部分である。
要約すると、不動産や駐車場の賃貸以外の自営を行う場合、以下の4つの条件を全て満たす必要がある。
①利害関係がない
②本務の遂行に支障がない
家業を継承したものである
④信用失墜に当たらない
今回のケースはこの条件のうち、③家業を継承したものである、を満たしていなかったので不許可とのことであった。

不勉強のためわからないことが多いのだが、判断に対して素朴に感じたところを2点書く。
1点目、自営の判定が釈然としないように感じた
営利を目的とした私企業を営んでいるのと同じ扱いとのことですが、個人的にまだ綺麗に整理できていない。
2点目、自営に対する許可の基準に疑問を感じた
家業の継承が条件に入っているのだが、こうなるとほぼ身動きがとれないように思う(そういう趣旨なのかもしれないのですが)。
また不動産や駐車場の場合は、③の家業継承が条件から外れるのですが、このあたりもどういった狙いがあるのか、勉強の必要を感じた。

X(旧Twitter)での広告収益配分
・不許可となった理由
これまでと同様、特定の企業の利益となるような業務については許可をだすことはできないとのことであった。
正直許可については難しいだろうと予想はしていたが、こういった収入形態についてはXに限らず間口が広く、もしかしたら関わる方も少なくないのではと考え、その理由の部分を伺った。

大手ブログ会社でのウェブ漫画掲載
・不許可となった理由
報酬は、執筆料(漫画作品に対して会社から支払われるもの)と広告料(ページのクリック数に応じて支払われるもの)を合わせて支払われる形であったが、後者の広告料が特定の企業の応援に当たり、公務員としての公平性を欠く恐れがあるとのことで不許可となった。
恐らくこの理屈が採用される以上、Youtube等の活動で広告収入を得るといったパターンについても、不許可となるものと思われる
また広告がNGであることを踏まえると、そもそもインフルエンサーといったような方向性は、公務員の兼業とは相性が悪いということにもなりそうである。

【おわりに】
今後も、新しい事例が増えたり、誰かから質問や要望があった際には更新していこうと思う。

訴訟時から繰り返し述べていることだが、私は学校教育は学校の中で完結すべきではないと思うし、そこで働くスタッフである教員も潜在能力を十二分に発揮すべきだと考える。
教員が伸び伸びと働くことは、子供たちの成長にも還元されうる。
社会から求められ、手腕を発揮できる場があるのであれば、それを応援したい。
私の経験が少しでも役に立ってくれたら幸いである。